
リハ学生にとって大きな試練とも成長のチャンスともなりうるリハ実習。その時に「この指導は辛い…」「この指導方法を続けていいものか…」と悩む瞬間は実習中に学生にも、指導者にも双方に生まれること。
作業療法士や理学療法士のリハビリテーション職を目指す学生たちにとって、臨床実習は大きな成長のチャンスであると同時に、大きなストレスの要因ともなり得ます。近年、医療系実習において精神的負担が過度にかかった結果、深刻な事態に至ったケースも報告されています。
特に2013年に発生した、大阪の理学療法士養成校に通う学生の自殺事件は、教育現場に衝撃を与えました。私も当時若手セラピストとして病院勤務をしていた頃で、人員不足から実習生指導もしていたこともあり、注目度の高い事件でした。
この事件は、「実習とは何か」「指導とは何か」「命を守る教育とは何か」という本質的な問いを、私たち医療教育関係者に突きつけています。この記事では事故の詳細を伝えつつ、その結果としてリハビリ実習がどのように変わった(または変容し続けている)のかを詳細にまとめました。
悲劇の概要:実習中に精神的に追い詰められた学生の自死

2013年11月、近畿リハビリテーション学院に在籍していた39歳の男性学生が、理学療法士の資格取得を目指して医療機関での実習に参加していました。実習は診療所で行われ、日中の現場対応に加えて、帰宅後も深夜に及ぶレポート作成が求められる過酷なスケジュールでした。
週の合計学習時間は70時間を超えていたとされ、精神的・肉体的な負荷が極度に蓄積されたと見られます。また、実習指導者からは繰り返し叱責を受け、「帰れ」などの強い言葉も確認されており、学生は深く追い詰められていました。
その結果、彼は神戸市内の公園で命を絶つという選択をしてしまいました。遺書には「本当にもう無理」と記されていたと言われています。このような事件は、学生本人だけでなく、教育体制全体に大きな課題を突き付けています。
現在のリハビリ実習では
- 実習時間:病院や施設における実際の実習
- 在宅学習:日々の見学記録であるデイリーノートやレポート作成
上記2つを含めて週40〜45時間(1日8〜9時間)に設定することとなっています。
週の学習時間70時間というと具体的には…
1日12〜15時間は何かしらの勉強や課題に取り組まざるを得ない状況であったと予想されます。おそらく、土日も心身を休めるどころか「同課題を月曜日に提出するか」「どうしたら指導者に指摘されないか」と常に不安に押しつぶされそうになっていたのではないかと考えます。
裁判の結果と社会的な影響
遺族である妻は、医療法人および養成校を相手取り、安全配慮義務違反を理由に約6,100万円の損害賠償を求めて提訴しました。2018年、大阪地裁は両者に安全配慮義務違反があったと認め、全額賠償の判決を下しました。
その後、2019年に大阪高裁で和解が成立。医療法人および学校側は「強い遺憾の意」を示し、約3,000万円で和解が成立しました。
この判決は非常に重要な意義を持ちます。なぜなら、実習先の指導者にも責任があると認定された極めて珍しいケースだからです。医療系の実習において、学校側と実習施設側の両者に「学生の命を守る義務」があることが明確に示されました。
なぜこのような事件が起きたのか?――構造的な問題を整理する

この痛ましい事件の背景には、以下のような構造的・制度的な問題が存在していたと考えられます。
問題点 | 内容 |
---|---|
実習指導者の質のばらつき | 指導方法が標準化されておらず、経験則に依存していた |
教育機関との連携不足 | 養成校と実習先との連絡が不十分で、学生の状況が共有されていなかった |
精神的・時間的な負担の過剰 | 実習後の記録作成が深夜まで及び、週70時間以上の学習時間が生じた |
学生支援体制の欠如 | メンタルケアや相談体制が整っておらず、学生が孤立していた可能性が高い |
このような実態を放置すれば、今後も同様の事件が起こりうるリスクがあります。
作業療法士教育における実習制度の見直しと改善のポイント

この事件を受け、厚生労働省では実習制度の見直しが進められ、以下のような改善が求められています。
改善項目 | 実践のためのポイント |
---|---|
実習指導者の条件 | 国家資格取得後5年以上かつ指導者講習の修了が必須(厚労省指針) |
学生の健康管理 | 精神的・身体的変化に敏感になり、相談対応を整備する |
教育機関と現場の連携強化 | 定期的な情報共有で、早期に異変を察知・対応 |
育成型フィードバック | 否定や圧力ではなく、「育てる」「支える」視点の言葉がけ |
作業療法士教育の場においても、単なる知識や技術の伝達だけでなく、心身の健康を支える教育体制が求められます。
実習は「人を育てる場」であり、「人を壊す場」ではない

リハビリ実習は、学生が現場の空気を肌で感じ、専門職としての視点・倫理・技術を身につける貴重なステージです。しかしその環境が学生の心を追い詰め、生命を脅かすようでは、本末転倒です。
この事件は「教育とは管理ではない。人を育てる営みである」という根本的な視点を、私たちに再認識させてくれます。
学生の未熟さを責めるのではなく、支え、成長のプロセスを共に歩む姿勢こそが、教育者・医療者に求められるものではないでしょうか。
最後に:私たち教育者・実習指導者が背負う「命」と「未来」
この事件を通じて明らかになった教訓は、単なる「反省」ではなく、未来への責任です。
教訓 | 要点 |
---|---|
実習指導者の責任 | 学生の未熟さを受け入れ、見守る包容力が必要 |
養成校の役割 | 実習任せにせず、学生を守る体制を作る |
再発防止の鍵 | メンタルケア体制/適切な指導者配置/強固な連携体制の確立 |
私たちは、人の命に関わる職業を育てる立場として、学生の心を壊すのではなく、未来を育む土壌を作らなければなりません。指導の言葉ひとつ、態度ひとつが、学生の人生を大きく左右する可能性があることを忘れてはいけません。
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